抄録
【目的】ニカルジピン塩酸塩注射液の静脈内投与によって発現する血管障害の誘発機序を明らかにすることを目的とし、ニカルジピン塩酸塩による正常ヒト皮膚微小血管内皮細胞(HMVEC)の細胞傷害メカニズムについて精査した。
【方法】HMVEC にニカルジピン塩酸塩を暴露し、経時的な死細胞数増加を測定した。また、アポトーシスのマーカーとなる Caspase 3/7 活性及びオートファジーのマーカーとなる Monodansylcadaverine (MDC) を用いて細胞傷害メカニズムを精査し、オートファジー阻害剤存在下での細胞生存率の測定により、オートファジー阻害剤がニカルジピン塩酸塩誘発細胞傷害に与える影響を評価した。
【結果・考察】ニカルジピン塩酸塩を暴露 30 分後に細胞内の小胞体増加が認められ、暴露後 3 から 6 時間にかけてオートファゴソーム染色試薬の MDC の蛍光強度が増加し、6 から 9 時間にかけて死細胞が増加した。一方、アポトーシスのマーカーとなる Caspase 3/7 の活性化は認められなかったため、ニカルジピン塩酸塩暴露による細胞傷害のメカニズムはオートファジー誘導によるものであると考えられた。オートファジー阻害剤である 3-methyladenine 存在下でニカルジピン塩酸塩を暴露したところ、ニカルジピン塩酸塩による細胞生存率の低下は著しく抑制された。以上の結果から、ニカルジピン塩酸塩によるヒト血管内皮細胞の細胞傷害の主要経路はオートファジーであり、オートファジーの阻害によりニカルジピン塩酸塩による細胞傷害を低減できると考えられる。