抄録
【目的】 抗てんかん薬カルバマゼピン (CBZ) は肝障害を引き起こすことが報告されている。我々は以前、Balb/cマウスに5日間CBZを経口投与することにより肝障害モデルを作出し、interleukin (IL)-17を初めとする免疫因子の肝障害発症への関与を報告した。本研究では、非臨床試験で頻用されるラットを用いてCBZ誘導性肝障害モデルを作出し、その発症機序においても免疫因子が関わっているか明らかにすることを目的とした。【材料/方法】 雄性F344ラットにCBZ 400 mg/kgを4日間経口投与し、5日目にCBZ 600 mg/kgを経口投与した。グルタチオン合成阻害剤であるl-buthionine-(S,R)-sulfoximine (BSO) はCBZ最終投与より2時間前に腹腔内投与した。また、肝臓中のkupffer細胞 (KC) を枯渇させるため、CBZ最終投与24時間前にgadolinium chloride (GdCl3) 10 mg/kgを静脈内投与した。CBZ最終投与3, 6および24時間後に血漿および肝臓を採取し、血漿中ALT値測定、肝病理組織検査、肝臓中カスパーゼ活性測定および免疫因子のmRNA発現量解析を行った。【結果/考察】 CBZ最終投与24時間後に顕著なALT値の上昇が認められ、小葉中心性の細胞壊死が認められた。また、肝臓中の炎症性サイトカイン (tumor necrosis factor (TNF)-α, IL-1β, およびIL-6) および抗炎症性サイトカイン (IL-10) mRNA発現量の上昇が認められた。これらのmRNA発現量の上昇はGdCl3により抑制され、同時に肝障害の程度も強く抑制された。一方で、T細胞分化マーカーのmRNA発現上昇は認められなかった。肝障害発症に伴い肝臓中カスパーゼ3活性の低下が認められたことから、アポトーシスは誘発されていないことが示唆された。以上より、F344ラットにおけるCBZ誘導性肝障害発症には主にKCを介した炎症性サイトカイン分泌が関与していることが示唆され、ラットにおいても免疫因子を介した薬物誘導性肝障害発症機序の解明が可能であることを明らかにした。