抄録
Erythropoietin(EPO)は骨髄での赤血球産生を促進するホルモンであり、主に腎臓と肝臓で産生される。近年、EPOは様々な組織で細胞保護作用を持つことが報告され、種々の疾病の予防や治療へ利用が期待されている。EPO産生調節機序にはHypoxia inducible factor(HIF)が関与しており、低酸素状態は主要なEPO産生促進因子である。我々は低酸素状態に似た細胞状態がEPO産生促進作用を持つのではないかと考え、低酸素状態で変動する細胞内の酸化還元状態に着目した。低酸素状態では解糖が亢進し、細胞内の酸化還元状態は還元に傾く。そこで、代謝時に還元等量を産生する還元型基質であるソルビトールと乳酸のEPO産生への影響を検討した。HepG2細胞にソルビトール又は乳酸を添加して30分後に、NAD+、NADH、ATP量を、6時間後、EPO mRNA量及びEPO mRNA発現の調節因子hypoxia inducible factor(HIF)-1α量、および培養液中のEPO濃度を測定した。ソルビトールまたは乳酸の添加はATP量には影響しなかったが、細胞内NADH量は共に増加した。細胞内NAD+量はソルビトール添加でのみ増加したが、細胞の酸化還元状態はどちらの添加も還元に傾いた。ソルビトール添加6時間目ではEPO mRNA量、HIF-1α量、およびEPO濃度は増加したのに対して、乳酸添加では減少した。還元等量のミトコンドリアへの輸送を制限するaminooxyacetateの添加は乳酸によるEPO産生減少を防いだ。以上の結果から、ソルビトール代謝により産生する還元等量は細胞質内でのピルビン酸からの乳酸産生に利用されることがEPO産生の促進につながり、逆に乳酸代謝で産生する還元等量はミトコンドリアへ輸送されて代謝されることで、EPO産生の抑制につながっていると考えられた。