抄録
発がんにおけるエピジェネティック修飾の異常に関してこれまでに多くの研究報告があるが,化学物質による発がんの早期過程で生じるエピジェネティックな変化についての研究はまだ十分に進んでいない。本発表では,トキシコゲノミクスプロジェクトにおいて実施したラット二段階肝発がん試験の肝臓を用いたDNAメチレーション及び遺伝子発現の網羅的解析について紹介する。イニシエーション処置としてDiethylnitrosamine(DEN),Thioacetamide,Methapyrilene,Acetaminophenをそれぞれラットに1~2週間反復投与し,2週間休薬後にプロモーション処置としてPhenobarbital(PB)飲水投与を実施し,PB投与1週間の時点で肝部分切除を行い,6週間後に解剖を行った。肝切除時および解剖時に採材した肝臓サンプルについて網羅的解析を実施した結果,GST-P陽性変異細胞巣が顕著に認められたDEN処置群肝臓では,発現量とDNAメチレーションが共通して変動した遺伝子はPTENシグナルと免疫反応に関するパスウェイに関連が認められた。特にDNAメチレーション変動遺伝子では部分肝切除サンプル,すなわちプロモーション初期から免疫反応パスウェイに関連が認められていた。また,抗原提示に関与するMHC class Ib遺伝子の特異的低メチル化及びmRNA発現亢進が認められ,発がんとの関連が推察された。以上より,肝発がん初期の免疫に関連する遺伝子発現変動とともにDNAメチレーションの変動があることが明らかとなった。このような変動は発がん早期の変化を捉える指標として利用できる可能性があると考えられた。