抄録
化学物質の曝露によりしばしば肝細胞肥大や肝肥大(肝重量増加)が認められるが、それらの発現機序や生理学的・毒性学的意義は不明である。肝肥大と肝発がんとの関連が指摘されている一方で、薬物代謝酵素誘導との関連性から肝細胞肥大は生体の適応反応とも考えられており、他の肝障害マーカーの増加を伴わない肝細胞肥大・肝肥大を毒性影響とする明確な根拠はない。しかし、食品安全委員会における化学物質のリスク評価では、肝細胞肥大や肝肥大は現在一律的に毒性影響とされている。肝細胞肥大や肝肥大は構造的・薬理学的に多種多様な化学物質により引き起こされることから、その発現機序や毒性学的影響も多様であると考えられる。このため、推定される発現機序や同時に起こる他の毒性学所見などに基づき肝細胞肥大・肝肥大の特徴を把握し、それらを分類して毒性影響の理解やリスク評価を行うことは有意義であると思われる。そこで我々は、食品安全委員会で公開されている農薬、動物用医薬品および食品添加物の食品健康影響評価書から反復投与毒性試験結果を抽出し、毒性データベースの構築および毒性徴候間の関連性解析を進めている。構築したデータベースは、物質一般情報(名称、CAS番号等)、試験方法情報(動物種・系統、性別、投与量等)、試験結果情報(血液生化学検査値、臓器重量変化、病理組織学的所見等)を含み、PubChemへのリンクや検索機能を備えている。また、中心性肝細胞肥大およびび漫性肝細胞肥大と関連する他の毒性徴候の比較解析から、これら肝細胞肥大の共通点・相違点が明らかになってきた。本講演では、毒性試験結果情報の解析から見えてきた化学物質誘発性肝細胞肥大・肝肥大の特徴や他の毒性影響との関連性を考察する。