日本毒性学会学術年会
第41回日本毒性学会学術年会
セッションID: S18-4
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シンポジウム 18 膵炎・膵臓がんの非臨床及び臨床評価
膵がんの臨床的特性と病理
*落合 淳志
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抄録
 膵癌に対する外科手術手技や全身化学療法は進歩しているものの、膵癌患者の予後は未だ不良である。膵癌患者は、腫瘍の増悪とともに全身状態の低下が顕著となり、抗癌治療抵抗性となる臨床的特性があり、予後不良の原因の一つと考えられている。膵癌の臨床的特性と関連する組織形態学的因子を特定することは、膵癌患者が予後不良となる機序について重要な情報を与える可能性がある。しかし、これまでの多くの報告は、予後不良と腫瘍の組織形態学的因子との関連を検討したものであり、全身状態の低下との関連はあまり報告されてこなかった。そこで、我々は、膵癌の臨床的特性である全身状態の低下に着目し、関連する腫瘍の組織形態学的因子を検討している。
 膵癌に対する根治切除を受けた患者の切除標本では、ほぼ全ての患者で神経浸潤が認められる。切除標本で神経浸潤が高度であった患者は、再発時に全身状態の低下が顕著であり、予後不良であった。神経浸潤が全身状態の低下を説明する腫瘍形態学的因子であると考え、ヒト膵癌細胞株を用いた神経浸潤マウスモデルを作製したところ、ヒト神経浸潤の組織形態像に最も類似した細胞株のモデルが体重減少・炎症反応高値・高度の疼痛を示し、膵癌患者の全身状態低下に類似した病態を示した。よって、神経浸潤は膵癌患者の全身状態低下を説明する腫瘍形態学的因子の一つであると考えられた。神経浸潤マウスモデルを用いて、神経浸潤の分子機序を検討したところ、IL-6/STAT3経路が重要であることが示唆された。そこで、IL-6経路を阻害する臨床試験を行い、その臨床的効果を現在解析中である。
 我々は、膵癌神経浸潤による全身状態低下を説明しうる機序に基づいた治療開発を目指している。研究の出発点、臨床病理学的検討からモデルの作製、臨床試験、および今後の展望について発表する予定である。
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© 2014 日本毒性学会
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