抄録
急性膵炎は膵腺房細胞内のトリプシノーゲンが異所性に活性化して細胞壊死を起こし、炎症細胞浸潤と炎症性サイトカイン産生が惹起されることで発症する。急性膵炎は可逆性であるが、飲酒などの原因が排除されないと、次第に膵腺房細胞の脱落と線維化がおこり、慢性膵炎に移行することもある。主症状は上腹部痛、背部痛、嘔気などで、急性膵炎に特異的なものではない。血液マーカーとして、アミラーゼ、リパーゼ、トリプシン、エラスターゼ1、ホスフォリパーゼA2などの膵酵素や、炎症マーカーの白血球やCRPが上昇する。アミラーゼには膵型と唾液腺型のアイソザイムあり、高アミラーゼ血症であっても膵由来とは限らないので、膵疾患に特異的な膵型アミラーゼかリパーゼを測定する必要がある。急性膵炎の画像診断は造影CTを施行し、膵壊死の程度や炎症の範囲を調べる。急性膵炎は重症度により生命予後が異なり、重症では死亡率が高いので、重症であれば高次医療機関での必要となる。重症膵炎を予測するための主要なバイオマーカーは、多臓器不全、ショック、DICなどを示す血液マーカーである。血中膵酵素値は急性膵炎の診断マーカーではあるが重症度の予測には有用ではない。慢性膵炎の初期は、急性膵炎と同様な腹痛を繰り返すが、超音波検査やCTなどの画像検査では異常を示さないことが多く診断が難しい。慢性膵炎が進行すると、膵内外分泌機能が低下して糖尿病や消化吸収不良の病態が中心となる。慢性膵炎による糖尿病は膵性糖尿病と呼ばれ、インスリンのみならずグルカゴンの産生も低下するため、血糖調節が困難な糖尿病になる。外分泌機能不全では低栄養、脂肪便などの消化吸収障害が出現する。臨床的に使用可能な外分泌機能評価のマーカーはあるが、軽度の外分泌機能低下を判定できる鋭敏なものはない。本講演では急性膵炎、慢性膵炎の診断の現状と将来的展望について述べる。