【目的】タバコ特異的ニトロソアミンである4-(methylnitrosamino)-1-(3-pyridyl)-1-butanone (NNK)は、国際がん研究機関の5段階発がん性分類において最もレベルの高い「ヒトに対して発がん性がある」とされるグループ1に分類されている。NNKが発がん性を示すには、シトクロムP450による水酸化が必要であり、N-ニトロソ基に隣接するα-メチル基が水酸化を受けた場合は、代謝活性中間体4-(hydroxymethylnitrosamino)-1-(3-pyridyl)-1-butanone (HO-methyl NNK)が生成する。既に我々は、NNKの発がん標的臓器特異性を解明する一環として、代謝活性中間体であるHO-methyl NNKのグルクロニド(HO-methyl NNK gluc)生成に着目し、その組織分布とNNKの標的臓器特異性との関係について報告している。本研究では、HO-methyl NNK glucがNNKの標的臓器へ移行後、組織中のβ-glucuronidaseにより脱抱合され、生体高分子と付加体を生成する可能性について検討することを目的とした。
【方法】マウス肝ホモジネート及びHO-methyl NNK glucと2’-deoxyguanosine (dGuo)あるいはN-acetyl-L-cysteine (NAC)をインキュベートした後、LC/MS/MSを用いて生成する付加体の構造を解析した。
【結果・考察】HO-Methyl NNK gluc とタンパク質との付加体生成を念頭に、HO-methyl NNK glucとNACをマウス肝ホモジネート存在下でインキュベートしたところ、HO-methyl NNK由来のNAC付加体生成が認められた。一方、マウス肝ホモジネート不在下では、この付加体生成は認められなかった。同様にHO-methyl NNK glucとDNAの付加体生成を念頭に、dGuoとの付加体生成を検討したところ、dGuoとHO-methyl NNK glucからマウス肝ホモジネート存在下において、HO-methyl NNK由来のdGuo付加体生成が認められた。以上のことから、HO-methyl NNK glucが組織中でβ-glucuronidase依存的に再活性化され、生体タンパク質あるいはDNAと付加体を形成する可能性が示唆された。