抄録
[目的] 医薬品候補化合物の安全性評価をするにあたり、薬物代謝は重要な因子である。現在、医薬品開発の初期段階における薬物代謝試験には、主にヒト初代/凍結肝細胞が使用されている。しかし、ヒト肝細胞には、ドナー由来の差異や細胞の安定供給の問題点がある。そこで本研究では機能の改善が進むヒトiPS細胞由来肝細胞(hiPSC-hep)の薬物代謝能を評価し、薬物代謝試験への応用を検討した。また、薬物代謝試験にhiPSC-hepを利用するため必須の条件である安定な細胞の供給が可能か検討する目的で、ロット間、iPSCドナー間における薬物代謝能の差異についても評価した。
[方法] 平成27年末時点で入手可能な市販のhiPSC-hepを3社(A、B、C)より購入し、薬物代謝能を比較した。併せて、同一iPSC由来で分化誘導ロットが異なる細胞(B、C社)と異なるドナー由来のhiPSC-hep(C社)を入手し、薬物代謝能を比較した。指標としては、シトクロームP450(CYP)の酵素活性(LC-MS/MS)と遺伝子発現および誘導能(リアルタイムPCR)を用いた。
[結果と考察] B社とC社のhiPSC-hepではヒト肝臓と比較して十分なCYP発現が認められた。また、A社とB社の細胞では、典型的な誘導剤によるCYP1A1、CYP1A2とCYP3A4の誘導も観察された。B社のロットが異なる細胞では、CYP発現の基底状態における差が少なく、誘導剤によるCYP誘導も同程度に観察された。C社の異なるドナー由来のhiPSC-hepでは、一部のCYPで発現に差が認められた。今回の検討より、hiPSC-hepは、ロットやドナーの異なる細胞でも安定した結果を示しており、薬物代謝試験におけるヒト肝細胞の代替細胞となりうる可能性が示唆された。