抄録
【目的】我々はこれまでに高血圧治療薬であるNicardipine(NIC)と芳香族炭化水素受容体(AhR)リガンドである3-methylcholanthrene(MC)をヒト肝がん細胞株HepG2に複合曝露することで、AhR活性化やCYP1酵素の相乗的な誘導が起こり、MC-DNA付加体形成が増強されることを報告している(Cancer Sci. 101, 652, 2010)。この相乗的誘導にはNICによるMCの細胞内取り込みの増強や排出抑制などが関与しているものと推察されているが、その機構は明らかではない。本研究では、MCの細胞内動態が異なる可能性のある種々細胞株を用いて、NIC単独またはMCとの複合曝露によるCYP1酵素遺伝子の発現を比較検討した。
【方法】ヒト由来細胞株として、HepG2、A549、Caco-2、MCF-7、Hela、IshikawaおよびLNCaP細胞を使用した。48時間前培養したこれらの細胞株に、低濃度MC(0.1 µM)の存在下または非存在下、Nic(10 µM)を処理した。24時間処理後、Total RNA を抽出し、定量的RT-PCR法によってAhR標的遺伝子(CYP1A1またはCYP1B1)のmRNA量を測定した。さらに、HepG2およびA549細胞由来のAhRレポーター細胞を作成し、AhR活性化に及ぼす複合影響を評価した。
【結果および考察】今回用いた細胞のうち、CYP1A1の誘導はMCF-7で最も高く、対照群に比べてMC単独で11.8倍、NIC単独で9.5倍、複合処理群では75.1倍となった。また、A549およびHela細胞を除く他の細胞においても、NICはMCによるAhR標的遺伝子の発現を増強した。そこで、AhR標的遺伝子発現誘導が異なるHepG2とA549細胞から樹立された各AhRレポーター細胞株を用いてAhR活性化を解析したところ、HepG2由来細胞ではNICによる相乗的複合効果が見られ、A549由来細胞ではそのような効果が見られなかった。本研究により、NICとMCの複合処理に対するAhR活性化応答性が異なる細胞株が見出された。現在、これら細胞株を用いて、NICとMCによる相乗的AhR活性化関わる細胞内因子の解明を進めている。