抄録
健常な高齢者では骨髄の末梢血産生能は維持されている。C57BL/6マウスにおいて、末梢血数は21ヶ月齢でも若齢マウスと同等で、分化型の造血前駆細胞の細胞動態にも差異を認めないが、未分化な造血幹前駆細胞(CFU-S13)の細胞動態は抑制されており、予備力の低下を示唆するものと解釈された。そこで、外来異物に対する造血組織の応答性の加齢に伴う低下の如何について検討することを目的に、6週齢と21ヶ月齢のマウスにそれぞれ2Gyのγ線を単回全身照射し、4週間の回復期間をおいて、各種造血パラメターを計測した。その結果、末梢血の血球数は、老若ともに非照射対照群と同等に回復した。一方、照射4週後からブロモデオキシウリジン(BrdUrd)の投与を開始して、分化型から未分化型の種々の造血前駆細胞(CFU-GM, CFU-S9, CFU-S13)の細胞周期関連パラメターをBUUV法(BrdUrdのin vivo持続標識後、各造血前駆細胞で、紫外線[UVA]照射によって淘汰される取り込み細胞の比率を測定する方法 [Exp Biol Med 227:474-9, 2002])によって解析したところ、BrdUrdの投与期間に対するBrdUrdの取り込み分画の増加曲線から得られる各指標のうち、1)単位時間あたりのBrdUrdの取り込み分画は、若齢マウスのすべての造血前駆細胞で、照射群の方が有意に大きかった。一方、加齢マウスでは差異を認めなかった。2)generation doubling timeは、老若とも、照射群で延長していた。ただし、加齢マウスのCFU-S13のみ、照射によって47.3hから34.1hに短縮した。3)BrdUrdの累積取り込み分画の大きさは、照射群の加齢マウスのCFU-S13のみ、有意に大きかった (12.1±5.8% vs. 17.1±9.3%, p<0.05)。即ち、加齢マウスの照射後の末梢血球数の回復機構は若齢マウスとは異なっており、分化型の造血前駆細胞に余剰の増殖能が乏しく、細胞動態が抑制状態にあるCFU-S13を再活性化することで、末梢血球数の回復を図っていることが示唆された。