抄録
【目的】ナノテクノロジーが発展してきた現在、その基盤となっているのがナノマテリアルである。工業ナノマテリアルの特性と生体影響との関係を明らかにすることは、安全なナノマテリアルを開発するため、あるいはナノマテリアルを安全に使用するために必要である。本研究ではシリカナノ粒子の表面修飾が生体との相互作用にどのような影響を及ぼすのかを調べた。
【方法】25nm粒子径のローダミンが結合したシリカナノ粒子を用意した。さらに粒子の表面にアミノ基、カルボキシル基、水酸基を付加させることで、それぞれ陽性、陰性、中性に帯電させた。これらの粒子を8週齢のC57BL/6J雄マウスに2 mg/kgと、10 mg/kgで咽頭吸引法によって曝露させた。24時間後、深麻酔下で気管支肺胞洗浄液(BALF)を回収し、細胞数、蛋白量、炎症性サイトカイン量を計測した。さらにBALF中の細胞へのシリカナノ粒子の取り込みを共焦点顕微鏡で観察した。
【結果・考察】陽性電荷を有するシリカナノ粒子は総細胞数、好中球数、総蛋白量、TNF-α、好中球遊走因子MIP-2を量依存的に増加させたが、陰性電荷を有する粒子はこれらを変化させなかった。中性のシリカナノ粒子は高濃度暴露群でのみ総細胞数、好中球数、総蛋白量、TNF-α、MIP-2を増加させた。以上より25 nm粒子径の陽性に帯電したシリカナノ粒子と中性のシリカナノ粒子が雄マウスへの咽頭吸引投与により、24時間後の急性期において炎症反応を誘導するのに対し、同じ粒子径の陰性に帯電したシリカナノ粒子は炎症反応を誘導しないことがわかった。シリカナノ粒子の表面修飾が肺の炎症誘導に影響を及ぼすことが明らかとなった。さらに、細胞が粒子を取り込んだ様子を共焦点顕微鏡によって確認できた。