抄録
粒子径100 nm以下の微粒子であるナノマテリアル(NM)は、サイズの微小化に伴い、従来のサブミクロンサイズ以上の素材とは異なる作用や動態を示すことが懸念され、NMのリスク解析に向けた、ハザード解析と体内・細胞内動態解析が世界的に進められている。近年、細胞内にNMが移行することにより、外来異物の分解・排除にかかわるオートファジーが誘導されることが報告され、オートファジーが細胞内に移行したNMの排除に関わる可能性が指摘されている。一方で、オートファジー関連分子はNMの細胞内への取込経路であるエンドサイトーシスにも関与することが明らかとなりつつあり、オートファジーは細胞内に移行したNMの排除だけでなく、NMの細胞内移行にも関与している可能性が考えられる。しかし、オートファジーとNMの細胞内動態に着目した報告は未だ乏しく、NMの細胞内移行とオートファジーの関連は明らかとなっていない。そこで本検討では、NMの細胞内移行におけるオートファジーの寄与を明らかにすべく、まずはオートファジー阻害時におけるNMの細胞内移行量を評価した。ヒト胎児腎細胞株(HEK293;WT)と変異Atg4B遺伝子を過剰発現させたオートファジー欠損HEK293細胞株(DN)を用い、粒子径30 nm、70 nm、300 nmの蛍光修飾シリカの細胞内移行量の変化を評価した。その結果、nSP300添加群では細胞内取込の抑制率が低い傾向が認められるものの、WT細胞と比べ、DN細胞でいずれの粒子径においても細胞内へのシリカの取込の顕著な抑制が認められた。本結果から、オートファジーがNMの細胞内移行に関与することが示された。一方で、本実験で使用したDN細胞はAtg4Bに加え、Atg7の働きも阻害することが明らかとなっている。従って今後、siRNAによりAtg4B、Atg7をノックダウンした際のシリカの細胞内移行量を解析することで、オートファジー関連分子とNMの細胞内取込の関係について追究していく予定である。