抄録
化学物質のリスク評価で実施される発生毒性試験において検体投与群の胎児に腰肋(過剰肋骨)の発現頻度の増加が認められることがある。腰肋は自然発生的にも発現することなどから異常(奇形)ではなく変異と分類され、その毒性学的意義や催奇形作用との関連性についても明らかにされていない。今回、催奇形作用が確認されているフルシトシン(抗真菌薬)を用いて、ラット胎児に発現する腰肋の毒性学的意義について検討したので報告する。
Sprague-Dawley雌ラット(各群6~7匹)の妊娠9日(膣垢中精子確認日=0日)にフルシトシンを0.3%CMC液に懸濁して15, 35および75mg/kgの用量を単回経口投与した。試験期間中は母動物の体重および摂餌量を毎日測定した。妊娠21日に帝王切開して着床数、胎児数等を調べた。生存胎児は体重測定、雌雄判別、外表観察を行った後、全例を骨・軟骨二重染色を施して骨格検査に供した。腰肋については、その形状(長さ)により痕跡型、短小型、過剰型に分類した。
いずれの群にも母動物毒性は認められなかった。帝王切開所見では着床数、生存胎児数等に投与による影響はみられず、外表異常も観察されなかった。骨格異常としては頸椎癒合が75mg/kg群で、仙椎過剰が35mg/kgおよび75mg/kg群で有意に増加した。この他、腰肋の発現と関連する胸椎過剰が全ての投与群で有意に増加した。痕跡型腰肋は35mg/kg(39.3%)および75mg/kg群(21.6%)で対照群(10.2%)に比べて有意に増加した。短小型腰肋はすべての投与群(15mg/kg:12.6%, 35mg/kg:34.5%, 75mg/kg:37.8%)で有意に増加し、過剰型腰肋は35mg/kg(7.1%)および75mg/kg群(20.3%)で有意に増加した。発現する腰肋の形状は用量が上がるにつれて痕跡型から、短小型、過剰型へと移行する傾向が認められた。
本試験条件下において腰肋の発現頻度は催奇形作用を示す用量に相関して有意に増加し、腰肋の形状(長さ)も用量に伴い変化したことから、腰肋の発現頻度の増加は催奇形作用との関連性が高く、短小型または過剰型腰肋の増加は催奇形作用の指標となりうることが示唆された。