抄録
胎生期・神経発達期の化学物質曝露に起因する生後の遅発性神経毒性を評価する ex vivo 試験法の開発と確立を目的として、様々な化学物質に汎用性のある発達神経毒性評価法を検討している。一昨年本学会において、抗てんかん薬バルプロ酸(VPA)の胎生期単回投与による生後2週目の海馬神経回路特性の変化を報告した。今年度は、内分泌かく乱作用を示すとされるトリブチルスズ(TBT)およびその対照としての無機スズである酢酸スズ(TA)を用いた。VPA投与時期と同じく妊娠15日の胎生期にTBT(20 mg/kg)あるいはTA(15 mg/kg)を投与した仔ラット(対照群として50% ポリエチレンレグリコール投与群を使用)について、日齢5‐7日おける不随意運動の変化を計測し、その後日齢13-18日における海馬の興奮系神経回路機能およびγ-アミノ酪酸(GABA)作動性抑制系神経回路機能について海馬スライス標本を用いて検討した。対照群の不随意運動は5日齢から7日齢にかけて減少したが、TBTあるいはTA曝露群についてはいずれも減少しなかった。このことから正常な神経発達の過程ではこの不随意運動が減少すること、TBT/TA胎生期曝露によりこの減少が認められなくなることが判明した。興奮系回路ついては、16日齢の対照群で認められる亢進現象がTBT群では17日齢以降に出現したことから興奮系回路の発達遅延が示唆された。ところが同様の傾向はTA群においても認められ、有機スズであるTBTばかりでなく無機スズであるTAにも発達神経毒性がある可能性が示唆された。さらにGABAA受容体拮抗薬ビククリンに対する反応性について検討したところ、生後発達に伴い反応性に差が出現すること、さらにその反応性の差にTBT胎生期曝露が影響を及ぼすことが認められ、GABA作動性神経系の生後発達にも影響を及ぼす可能性が示唆された。