抄録
【目的】富士山周辺の地下水にはバナジウムが0.1 mg/L前後含まれている。この地域では水道の原水として地下水を利用しているため、地域住民はバナジウムを含む水道水で生活を送っている。我々はこれまでに、バナジウムの生体影響に関してマウスを用いて検討を行ってきた。その結果、バナジウム摂取により中性脂肪の増加が抑制されることを見出した。今回、その中性脂肪増加抑制作用に関してさらに検討を行った。
【方法】DBA/2マウス(オス, 5週齢)にメタバナジン酸アンモニウムで調製したバナジウム水溶液(0.1,1,10 mg/L)を飲料水としてそれぞれ動物に与えて飼育した。エサはCE-2を自由摂取させた。1、3、5ヶ月後に動物を解剖して血液および各種臓器を採取した。血漿を用いて中性脂肪、総コレステロール、HbA1c、ALTを測定した。対照としてイオン交換水(0 mg/L)を与えた動物にも同様の検討を行った。また、5ヶ月間バナジウム水溶液を与えた動物においては臓器中バナジウム蓄積量ならびに過酸化脂質量の測定も行った。
【結果】飼育期間中、動物の体重はバナジウムの濃度に関係なく対照群と同様に増加した。ALT活性、HbA1cならびに総コレステロール値を1、3、5ヶ月後にそれぞれ測定したが、どの投与期間でもバナジウム投与による有意な変化は認められなかった。1および3ヶ月後の中性脂肪は対照群と同じレベルであった。しかし、5ヶ月後では対照群に比べてバナジウムを与えている動物では中性脂肪が低下することが示された。この中性脂肪の低下作用は、バナジウムの濃度による違いは認められなかった。さらに過酸化脂質量を測定した結果、10 mg/Lのバナジウムを与えた場合にのみ、小腸で有意に増加することが認められた。従って、この実験では、0.1および1 mg/Lのバナジウム投与で示された中性脂肪増加抑制作用は毒性発現を伴わないと考えられた。しかし、バナジウムの毒性が動物に高カロリー食を与えると増強されることを我々はすでに明らかにしている。そこで、0.1 mg/Lや1 mg/Lのバナジウム水溶液が本当に安全な濃度なのか否かを明らかにするため、現在、高カロリー食を与えた動物を用いて同様の検討を行っている。当日はその結果も併せて報告する。