抄録
【背景】血液および血液生化学的検査値は,出生から成熟までの期間に大きく変化することが知られている。そこで,妊娠期の母動物に投与された化学物質が児動物へどのような影響を及ぼすのかを検討する前段階として,無処置の母動物から得られた児動物の血液および血液生化学的検査値の経時的なデータを得ることを目的に本研究を実施した。【方法】12週齢のSPF系雌性Wistar Hannoverラットを交配し,得られた児動物から生後0日 (PND 0),11,21,70日に血液を採取して,血液および血液生化学的検査を実施した。【結果・考察】血液学:赤血球数は日齢に伴い増加したが,ヘモグロビン量,ヘマトクリット値はPND 11,21で減少した。網状赤血球数および網赤血球幼若指数は,PND 0では測定値が得られなかった。その原因は,塗抹標本の鏡検結果から検出限界を超える多数の網状赤血球が存在したためと考えられた。これらの指標は, PND 70と比べてPND 11,21で高値を示した。赤芽球の出現頻度は日齢に伴い減少した。これらの結果は,造血の中心が胎生期は肝臓や脾臓であったものが生後は徐々に骨髄へ移行し,離乳前後には骨髄での造血が優勢になること,及び髄外造血では赤芽球が末梢血中に出現しやすいことを反映しているものと考えられた。血液生化学:PND 11,21,70で検査を実施した。アルカリフォスファターゼはPND70と比べてPND 11,21で高値を示し,骨格形成との関連が示唆された。ビリルビン濃度はPND 11の値が最も高く,幼若期は肝臓におけるビリルビン代謝能が未熟であることが示唆された。コリンエステラーゼ濃度には雌のPND 70において著しい増加が認められ,性成熟に伴う変化と考えられた。