抄録
【緒言】我々は、カドミウム (Cd) がアポトーシス誘導因子であるp53の過剰蓄積を引き起こして細胞毒性を示すことをすでに見いだしている。さらに、ユビキチン転移酵素の一つであるUbe2dファミリーの遺伝子発現の抑制が、Cdによるp53の分解抑制の一因であることを明らかにしてきた。近年、p53のユビキチン化に転写因子として知られるYY1が寄与することが報告されている。そこで本研究では、Cdによるp53の細胞内での蓄積変動に及ぼすYY1の影響をヒト腎近位尿細管上皮細胞 (HK-2細胞) を用いて検討した。
【方法】無血清条件下において、HK-2細胞をCdで処理した。細胞毒性はMTTアッセイ、YY1 mRNAレベルはリアルタイムRT-PCR法、各種タンパク質はWestern blot法によりそれぞれ測定した。
【結果および考察】Cdによる細胞毒性は6時間曝露では20 µMから、24時間曝露では10 µMから出現した。3時間のCd処理において、20 µM以上のCdでHK-2細胞内のp53が増加した。また、20 µMのCdを経時的に処理した場合、p53は3時間処理後から増加し始め、6時間処理後に最も蓄積したが、24時間処理後にはコントロールレベルまで減少した。一方、YY1はp53が細胞内に蓄積するよりも長時間、あるいは高濃度のCd曝露によって増加し、YY1の増加に伴って細胞内のp53が正常レベルまで減少することが明らかとなった。この時、CdによるYY1 mRNAレベルの上昇は認められなかった。以上の結果より、YY1はCdによるp53の過剰蓄積に対応して増加し、p53の分解を誘導することが示された。しかし、この時作用するYY1は新たに翻訳合成されたものではなく、既存のYY1が分解されずに蓄積した結果であることが示唆された。