抄録
Elotuzumab(以下、本薬)は、骨髄腫細胞上に高発現することが知られている“ヒトsignaling lymphocyte activation molecule family member 7(SLAMF7)”を標的としたヒト化免疫グロブリン(Ig)G1モノクローナル抗体(mAb)である。本薬は骨髄腫細胞のSLAMF7に結合し、抗体依存性細胞傷害(ADCC)を誘導して骨髄腫細胞を殺傷すると考えられる。その抗腫瘍効果に基づき、本薬を多発性骨髄腫治療薬として開発中である。
非臨床評価において、本薬はヒトのSLAMF7にのみ結合し、他の動物種(チンパンジー、カニクイザル、アカゲザル、イヌ、ミニブタ、ウサギ、ラット及びマウス)のSLAMF7には結合しないことが明らかとなった。更に、本薬の非臨床安全性評価に用いる代替動物として作製したヒトSLAMF7遺伝子導入トランスジェニックマウスにおけるヒトSLAMF7の発現パターンはヒトと異なり、トランスジェニック動物モデルは、非臨床安全性評価に用いる代替動物として適切でないと考えられた。
本薬はヒト以外の動物種に交差反応性を示さず、毒性試験に適した動物種が存在しないことから、本薬の製造販売承認申請にあたり、主にin vitro安全性評価及びin vivo生物学的活性評価で本薬の選択性及び標的外の毒性を検討した非臨床毒性資料を作成した。
本発表では、毒性試験に適切な動物種が存在しない抗体薬の非臨床毒性申請の事例として、その経緯と実際に申請資料に用いた毒性試験データパッケージについて紹介する。