抄録
【目的】バルビツール酸系注射用全身麻酔剤が血管外に漏出した際には、漏出部位に急激な変性・壊死が認められる場合がある。そこで本研究では、注射用全身麻酔剤であるチアミラールナトリウム(TA)及びチオペンタールナトリウム(TP)による細胞傷害メカニズムについて検討した。
【方法】①ヒト皮膚線維芽細胞(SF-TY細胞)にTA及びTPの臨床用薬液の10~1,000倍希釈溶液を4~72時間曝露し、細胞生存率を測定した。②SF-TY細胞に、TA及びTPとこれら医薬品に含まれる添加剤のみの薬液を、臨床用薬液の10倍希釈溶液にて24時間曝露し、細胞生存率を測定した。③ヒト肝がん細胞(HepG2細胞)に、TA及びTPの臨床用薬液の100倍希釈溶液を24時間曝露し、細胞内マロンジアルデヒド濃度を定量した。
【結果・考察】①TA及びTP共に、臨床用薬液の40倍希釈溶液より濃い溶液では、曝露4時間後より細胞生存率の低下が認められ、その後もこの細胞傷害性は持続した。また、臨床用薬液の100倍希釈溶液では、曝露開始時の細胞生存率を維持した。一方で、臨床用薬液の1,000倍希釈溶液における細胞生存率は、コントロールレベルであった。②TA及びTPの主薬を含む薬液では、細胞生存率が有意に低下したが、添加剤のみの薬液では細胞生存率の低下は認められなかった。③細胞内マロンジアルデヒド濃度は、TA曝露では約3.5倍、TP曝露では約2倍へと有意に増加した。
以上の結果より、注射用麻酔剤の血管外漏出では、漏出後まもなく細胞傷害が認められ、この傷害は長時間持続すると考えられた。一方で注射用全身麻酔剤の添加剤は、細胞傷害には関与しないことが示された。そして注射用麻酔剤が引き起こす細胞傷害性には、酸化的ストレスが関与することが明らかとなった。臨床において、注射用麻酔剤では血管外漏出後直ちに皮膚障害が認められ、本研究結果はこれを反映するものであった。