抄録
近年、農薬等のリスク評価において急性曝露による健康影響評価の指標として急性参照用量(ARfD)が設定されている。我々はARfD設定のためのエンドポイントとなる発生毒性所見を明らかにするため、妊娠ラットに骨格異常が報告されているフルシトシンを胎児器官形成期に単回投与して胎児に及ぼす影響を検討しており、昨年の本学術年会では器官形成中期単回投与による影響について報告した。今回、器官形成初期による影響を検討したので、その結果とともにこれまでに得られた知見と併せて報告する。
Sprague-Dawley雌ラット(各群6~7匹)の妊娠7, 8または9日(膣垢中精子確認日=0日)にフルシトシン35mg/kgを単回経口投与した。母動物の体重および摂餌量を毎日測定した。妊娠21日に帝王切開し、着床数、胎児数等を調べた。生存胎児は体重測定、雌雄判別、外表観察を行った後、全例を骨・軟骨二重染色を施して骨格検査に供した。いずれの群も母動物毒性はみられなかった。帝王切開所見では、胎児死亡率の増加が妊娠7日および8日群でみられ、これに伴い生存胎児数も減少傾向を示した。外表観察では、妊娠7日群で短尾が1例観察され、妊娠8日群で小眼球が4例みられたが、妊娠9日群では異常はみられなかった。骨格検査では、妊娠8日群で椎骨の癒合(頸椎)、椎体軟骨部の分離(頸椎)、過剰椎骨(仙椎)が有意に増加し、骨化不全(頸椎、胸骨分節)も増加した。妊娠9日群では、椎弓軟骨部の癒合(頸椎)、過剰椎骨(胸・仙椎)および腰肋が増加し、骨化不全(胸椎)も増加した。以上の結果とこれまでの知見より、ラットの発生毒性試験において母動物毒性が認められない条件下で、胚・胎児死亡率増加、胎児体重減少、外表異常増加、骨格異常(椎骨過剰・癒合、肋骨癒合、軟骨形成不全等)増加、腰肋増加、または骨化不全増加の所見が発現した場合、これらはARfD設定のエンドポイントとなりうることが示唆された。