抄録
これまで我々は、雌ラットを用いて若齢、成熟および妊娠動物に対する、有機リン系農薬のパラチオン(P)およびメタミドホス(M)の単剤あるいは複合暴露影響について検討し、若齢、成熟、妊娠動物の順に毒性が増強されることを示した。各ライフステージによって発現する毒性が異なる要因を検討するため、脳のコリンエステラーゼ (ChE)、血清Paraoxonase1 (PON1) 活性及び肝臓における代謝分解酵素のCyp1a2,Cyp3a23及びPon1発現量を測定した。脳におけるChE活性は症状に一致して、妊娠期で最も低かった。血清PON1活性は,明らかな違いは認められなかった。Pon1及びCyp1a2発現量は,対照群の妊娠期で低い値を示した。P及びMを複合暴露するとPon1の発現量は若齢期及び成熟期で低下し、妊娠期では高い値を示した。Cyp1a2の発現量には明らかな違いは認められなかった。Cyp3a23は若齢期で用量相関性に低下した。対照群の妊娠期ではPon1及びCyp1a2発現量が低かったことから,妊娠期では有機リン剤に対する感受性が高いことが示され,さらに,Pon1は誘導されるが,解毒するには活性化が十分でない可能性が示唆された。以上のことから,現在,PON1合成阻害について検討中である。 (厚生労働省 食品の安心・安全確保推進研究事業)