抄録
【目的】近年、化学物質により肥満が誘導される可能性が報告されている。一方でアンドロゲンは生殖機能のみならず、糖脂質代謝においても重要な役割を担う因子であるため、アンドロゲンのかく乱により肥満が誘導される可能性が懸念される。また登録農薬の中には、抗アンドロゲン作用を有する疑いがあるものが存在し、それらのばく露によって肥満リスクが増加する可能性が考えられる。しかし抗アンドロゲン剤ばく露と脂肪蓄積との関係を検討した報告は皆無である。本検討では、アンドロゲン受容体フルアンタゴニストのフルタミドをモデル化合物とし、抗アンドロゲン剤ばく露の脂肪蓄積および糖脂質代謝系への影響について検討を行った。
【方法】内因性アンドロゲンの影響を評価するため、9週齢の雄性マウスを去勢によりアンドロゲンを枯渇させ、18週齢で解剖した。フルタミドは、9週齢の雄性マウスを偽手術後、10週齢より十分な抗アンドロゲン作用が認められる250ppmの濃度で混餌投与し、18週齢で解剖した。解剖後、各臓器重量、血中グルコース濃度と糖脂質代謝に関連する遺伝子発現量を測定し、Oil Red O染色により肝臓の脂肪滴蓄積を観察した。
【結果・考察】去勢により脂肪重量の有意な増加が認められ、血中グルコース濃度と肝臓の糖新生促進因子の発現量が有意に増加した。このことから、内因性アンドロゲン枯渇により肝臓の糖新生に異常が生じ、脂肪蓄積が亢進する可能性が示唆された。フルタミド投与においても、去勢群と同様に脂肪重量の有意な増加が認められ、血中グルコース濃度と肝臓の糖新生促進因子の発現量も有意に増加した。さらに、肝臓における有意な重量増加と脂肪滴蓄積の亢進が観察され、脂肪肝マーカーであるFatty acid synthase発現量の有意な増加も認められた。以上より、抗アンドロゲン剤ばく露により、肝臓の糖代謝に異常をきたし、脂肪蓄積が亢進するとともに、脂肪肝を誘発する可能性が示唆された。