日本毒性学会学術年会
第43回日本毒性学会学術年会
セッションID: S1-1
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シンポジウム1 酸化ストレスとシグナル伝達
転写因子Nrf2の核移行制御に関わる情報伝達
*沼澤 聡
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抄録
Nrf2は酸化ストレスに対する細胞の多彩な防御応答を担う転写因子である。Nrf2は親電子性物質の代謝や運搬を担う第2相タンパクを誘導するだけでなく、栄養素の細胞への供給を増加させるトランスポーター、糖代謝を介してNADPHを増加させる酵素群、ATPを増加させる脂肪酸β酸化の酵素群などの誘導を通じて、細胞内レドックス環境を整え、親電子性物質を排除し、細胞のダメージを修復する機能を持ち、酸化ストレスに対する細胞の防御応答を多段階で調節していることが近年明らかになっている。Nrf2の転写活性制御は、細胞内分布により一義的になされている。すなわち、核に局在するNrf2の相対的増加が本転写制御の本態であり、その調節を主に担うのがKeap1である。細胞質に存在するKeap1はNrf2とCul3型 E3ユビキチンリガーゼのアダプターとして、Nrf2のプロテオソームによる分解に寄与する。親電子性物質や重金属がKeap1に存在する反応性システイン残基を修飾すると、Cul3-Keap1-Nrf2複合体の構造変化によりNrf2ユビキチン化能が低下し、Keap1がNrf2で占拠される。Nrf2は極めて速い代謝回転比をもつため、新規に合成されたNrf2はKeap1との結合を回避し核内に蓄積すると考えられる。Keap1の酸化修飾以外にもKeap1-Nrf2の結合が他のタンパクで競合されるとNrf2の活性化が誘導される。オートファジーにおけるアダプタータンパクp62は、その代表的な競合タンパク質である。一方、Nrf2はSCFβ-TrCP複合体とも結合しユビキチン化を受けるが、その結合はGSK-3によるNrf2リン酸化によって制御される。本シンポジウムでは、上記Nrf2の転写活性調節を概説するとともに、本転写活性化における種々リン酸化シグナルカスケードの役割を整理する。
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© 2016 日本毒性学会
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