日本毒性学会学術年会
第43回日本毒性学会学術年会
セッションID: S1-2
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シンポジウム1 酸化ストレスとシグナル伝達
過酸化水素の感知とeIF2αのリン酸化を介した酸化ストレス応答機構
*久下 周佐岩井 健太色川 隼人武田 洸樹
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抄録
活性酸素種(ROS) は、酸素・栄養等の供給量の増減などの環境変化に応答して細胞内で産生される。したがって、細胞はROSレベルを制御しROSによる細胞障害(酸化ストレス)を回避するシステムを備えることで環境の変化に適応している。ところで、様々なストレスに対応してタンパク質の合成を抑制する一方で抗ストレス因子を優先的に合成誘導するシステムがある。すなわち翻訳開始因子のeIF2αのSer51のリン酸化制御を中心とするタンパク質合成開始の選択である。このSer51を特異的にリン酸化するeIF2αキナーゼには、小胞体内腔に異常構造のタンパク質が蓄積を認識し活性化するPERK、アミノ酸飢餓により活性化されるGCN2、ウイルス感染で活性化されるPKRなどが存在する。一方、酸化ストレスの場合はeIF2αのリン酸化制御は起こるがeIF2αキナーゼの活性化が起こらないことからそのメカニズムは未解明であった。
BAG-1は抗アポトーシス因子として見出されたHSP70のコシャペロンである。また、リン酸化eIF2αレベルを負に制御する脱リン酸化酵素のGADD34/PP1の活性を低下させるとの報告もある。我々はBAG-1の2つのシステイン残基が過酸化水素によりジスルフィド結合を起こすとGADD34に直接的に結合してその活性を阻害すること、その結果リン酸化eIF2αレベルの上昇を促すことを見出した。実際に、ジスルフィド結合を起こさないBAG-1変異体を発現させた細胞では、eIF2αのリン酸化、およびこの経路に依存して誘導されるターゲット因子の誘導発現がブロックされ、細胞内の過酸化水素レベルが上昇した。また免疫不全マウスに移植したヒトがん細胞の増殖はBAG-1変異により阻害された。これらの結果は、BAG-1による過酸化水素の感知→eIF2α「脱」リン酸化抑制→リン酸化eIF2αレベルの上昇→ストレス応答性因子の発現誘導の経路が、制限環境下で産生される過酸化水素の毒性低減システムとして機能している可能性を示している。また、このシステムが薬毒物による細胞毒性の軽減にも寄与している可能性が考えられた。
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© 2016 日本毒性学会
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