抄録
腎臓は薬物や化合物の主要排泄経路となるため、毒性の発現しやすい臓器であり、毒性評価において重要な標的臓器となる。その要因として、単位重量あたりの血流量が多いこと、尿の生成過程において尿細管内で水分濃縮が起こり、管腔内薬物濃度が上昇すること、上皮細胞の刷子縁膜・側底膜に存在する輸送系によって薬物が細胞内に移行することなど、腎臓の生理的・機能的な特徴が関連している。
近年、腎毒性を検出・解析する7種のバイオマーカー(尿中総タンパク、アルブミン、シスタチン−C、β2−ミクログロブリン、クラスタリン、kidney injury molecule−1 (Kim−1)、trefoil factor 3)が提唱された。これらのバイオマーカーは、腎病変の有無や病変の程度との関連性が非臨床研究から示され、腎障害が懸念される場合には従来のバイオマーカー(BUN、クレアチニンなど)に加え、測定することが推奨されている。新たなバイオマーカーの開発が進み、腎毒性の評価においては、Toxicologistが主務とする機能の変化、病態経過の解析と、Pathologistが主務とする病理形態的解析との協働に基づく総合的な毒性評価が進められている。
そこで本シンポジウム「腎臓の毒性病理とバイオマーカー」では、腎臓の各種バイオマーカーの変動と病理学的変化との関連性ならびに毒性学的意義をより深く理解する機会として、3名の先生方よりご講演をいただく。それに先立ち、本セッションでは、毒性病理評価の利点ならびに欠点・評価の限界と、腎臓の代表的な毒性病理変化を概説する。