抄録
外来性化学物質代謝の第II相反応では、第I相反応の代謝物の極性をさらに増加させるグルクロン酸抱合(UGT)や硫酸抱合(SULT)、グルタチオン抱合酵素などの抱合反応が主要な代謝となっている。化学物質の代謝能力は、生物の化学物質に対する感受性を決定する重要なファクターである。我々はこれまでの研究から、魚類から哺乳類まで、P450および第II相反応の抱合に大きな動物種差があることを報告してきた。
哺乳類ではUGT1ファミリーは、主に内因性物質を代謝するビリルビングループ(1A1-1A5)と外因性物質を代謝するフェノールグループ(UGT1A6-1A10)に大別される。我々は、食肉目を中心とした哺乳類におけるUGT1ファミリーの遺伝子解析を行ったところ、鰭脚類は外因性物質であるアセトアミノフェン及び1-ヒドロキシピレンに対するUGT活性がネコと同程度に低く、中でもトドおよびキタオットセイではUGT1A6の偽遺伝子化が明らかになった。またUGT1ファミリーの系統解析及びシンテニー解析の結果、哺乳類のUGT1ファミリーは内因性物質代謝を担うUGT1A1相同遺伝子及び外因性物質代謝を担うUGT1A6相同遺伝子がそれぞれ遺伝子重複した後、動物種ごとに独自に遺伝子重複/欠損が起き、UGT1A2-1A5及びUGT1A7-1A10遺伝子が形成されたことが示唆された。一方、UGTと基質特異性が一部重複するSULTに関しては、これまで教科書的にブタで活性が欠損しているとされてきたが、ブタの肝臓ミクロソームのKm/Vmaxによる酵素効率の比較では他の動物種と大きな差はないことや、新たに硫酸抱合酵素が低活性である哺乳類を同定した
そこで、今回、動物が有する化学物質代謝の種差と毒性発現の違いを、UGTを中心に紹介したい。