抄録
化学物質による発がんは、遺伝毒性物質だけでなく非遺伝毒性物質も関わっていることが知られている。これらの物質の短期検索法として、遺伝毒性物質では遺伝情報を変化させることが分かっているため、Ames試験など多くの方法が使用されている。一方、非遺伝毒性物質ではその発がん機構が多様であるため、決定的となる方法はまだ見当たらない。Balb/c 3T3細胞(マウス全胎児)はin vitroで二段階発がんを再現できる。つまり細胞を、イニシエーター(多くが遺伝毒性物質)で短期間処理後、プロモーター(多くが非遺伝毒性物質)で長期間処理すると、接触阻止を示す単層状の細胞の中に多層に重なりあった形質転換巣が誘発される。この実験から、v-Ha-ras がん遺伝子が導入されているにもかかわらず、接触阻止を示すが代表的なプロモーターであるTPA処理により形質転換するクローンが得られればinitiated cellのモデルになると考え、スクリーニングした結果Bhas 42細胞を樹立した。
Bhas 42細胞をFISH解析したところ、v-Ha-ras は100%の割合で安定に組み込まれており、コピー数は平均2.4個であった。また、形質転換細胞はヌードマウスで造腫瘍性を示すが、正常細胞は造腫瘍性を示さなかった。さらに、プロモーターだけでなくイニシエーター処理によっても形質転換巣が誘発された。これら一連のBhas 42細胞の性状から、Bhas 42細胞形質転換試験は、遺伝毒性物質だけでなく非遺伝毒性物質も検出可能な発がん試験の代替法になることが示唆された。そこで我々は、98物質を用いて発がん性を予測するとともに、国内及び国際バリデーションを実施し、有用性を評価した。その結果、Bhas 42細胞形質転換試験は、発がん性を予測する試験としてOECDガイダンスに採択された。本講演では、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の支援により得られたOECDガイダンス化までの成果を中心に、Bhas 42細胞形質転換試験を紹介することで、非遺伝毒性発がん物質の評価方法について議論したい。