日本毒性学会学術年会
第43回日本毒性学会学術年会
セッションID: S6-1
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シンポジウム6 次世代研究セミナー:新規アプローチによる毒性発現機序解明とバイオマーカー探索
ダイオキシンの毒性機構解明に向けた新たな取り組み:メタボロミクスに基づくアプローチ
*武田 知起小宮 由季子服部 友紀子山田 英之
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抄録
 ダイオキシンは、現在も環境中に分布する汚染物質であり、生体に対する強毒性作用からヒトを含む生態系への悪影響が懸念されている。この毒性発現には、受容体型転写因子である芳香族炭化水素受容体を介した遺伝子発現変動が重要であると考えられている。しかし、変動遺伝子は数百種類にものぼるため、多種多様な毒性の全てを明確に説明できる分子機構は未だ殆ど理解されていない。我々は、上記の問題解決のための新たな試みとして、近年様々な研究分野において注目されているメタボロミクスに基づく研究を実施している。すなわち、遺伝子変動に伴い恒常性を維持する代謝反応が撹乱され、結果として生じる栄養成分の異常状態が障害の最終要因となるとの仮説を立て、ダイオキシンによる生体成分 (メタボローム) の変動と毒性の関連を見出すことを目指している。本講演では、これらの取り組みによって明らかにしてきた成果の一端を紹介する。
 最強毒性ダイオキシンである 2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin (TCDD) をラットに経口投与したのち、組織/体液中のメタボローム変動を解析した。肝メタボローム解析の結果、TCDD 依存的に leukotriene B4 (LTB4) が増加する事実を見出した。LTB4 は、強力な好中球活性化作用を通して炎症反応に関与し、その集積は組織障害の原因となりうる。更なる解析により、TCDD は LTB4 合成亢進によってこれを蓄積し、好中球浸潤ならびに炎症反応促進を通して肝障害を発現/悪化させるとの新規機構が明らかになった。さらに、排泄物のメタボロミクスにより、複数の一次胆汁酸の排泄量の増加が判明し、これが TCDD 依存的な脂質代謝異常に寄与する可能性も見出した。現在、ダイオキシン妊娠期曝露による次世代障害に対しても研究を展開しており、副腎ステロイドであるコルチコステロンの減少が一定の寄与を有することも見出しつつある。このように、メタボロミクスを基軸とする展開は、様々な場面における生体変化を組織や細胞単位で推定可能であり、障害マーカーの探索や機構解明のためのツールの一つとして有用であると考えられる。
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© 2016 日本毒性学会
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