抄録
腎障害は医薬品開発において最も懸念される副作用の1つである.腎機能検査として血中尿素窒素(BUN)及び血清クレアチニンが汎用されているが感度と特異性の問題が挙げられる.より早期に腎障害を検出できるバイオマーカー(BM)が求められている中,非臨床及び臨床において腎障害を早期に検出する複数の新規尿中BMが報告されている.非臨床ではPSTC(安全性予測試験コンソーシアム)から7つ(総タンパク,β2-マイクログロブリン,シスタチンC,Kim-1,アルブミン,クラスタリン,TFF3),臨床では世界的な腎臓病学団体であるKDIGO(国際腎臓病予後改善機構)から5つ(L-FABP, Cystatin C, NGAL, Interleukins, Kim-1)の尿中BMが提唱されているが,臨床・非臨床を橋渡しするBMの報告はほとんど無い.これらのBMの中で我々は,本邦発のBMであり欧州でも体外診断薬として認可されているL-FABP(L-type Fatty Acid Binding Protein)に着目して,非臨床安全性試験への応用を検討してきた.L-FABPは,ヒトでは近位尿細管に発現し,組織障害が進行する前段階の腎微小循環障害を反映する虚血・酸化ストレスマーカーである.尿中L-FABPを特異的に検出できる高感度型ELISA法を用いて,我々はこれまでにラット薬剤性腎障害モデルにおいて,尿中L-FABPが明らかな腎組織障害の前から他の血中及び尿中BMよりも早期にかつ感度よく上昇し,休薬期間後の腎組織再生にともない正常範囲に回復することを明らかにした.本発表では,これまでに得られたげっ歯類(ラット)の結果と新たに検討した非げっ歯類を用いた腎障害モデルにおける尿中L-FABPと他の新規尿中BMの変動を比較検討した結果を報告し,L-FABPの非臨床安全性試験における有用性について考察する.