日本毒性学会学術年会
第43回日本毒性学会学術年会
セッションID: SY1
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奨励賞
薬物代謝酵素の酸化反応に基づく化学物質や医薬品の毒性発現に関する研究
*佐能 正剛
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抄録
 チトクロームP450(CYP)は、化学物質や医薬品の化学構造に対して、水酸化反応や脱アルキル化反応などの酸化代謝をつかさどり、極性の高い代謝物を生成させ体外に排泄を促す解毒機構を有する。しかし、代謝物が毒性発現の原因となることもある。
 化学物質の部分構造にある芳香環はCYPによって酸化されフェノール性水酸基を導入した代謝物を生成するケースは多い。実際、工業原料スチルベンや防カビ剤ジフェニールは、肝ミクロソーム画分で反応させると芳香環のパラ位水酸化代謝物が生成した。内分泌ホルモンのエストロゲン系を撹乱させる化学物質の探索の中で、未変化体はエストロゲン受容体に対して活性をもたないものの、その代謝物はエストロゲン作用を示すことが分かった。これは代謝物の化学構造が、エストラジオールの部分構造と類似していることに基づくものと示唆された。
 このように代謝を考慮した評価を行わなければ、代謝物のみに毒性を有する化合物の毒性を見逃す可能性がある。また、生体における代謝的活性化による毒性は、さまざまな薬物代謝酵素の寄与の中で評価する必要もある。生体を反映した毒性発現を簡便に評価するためには、種々の薬物代謝酵素活性を維持したin vitro評価系が必要となる。その中で、細胞塊(スフェロイド)を形成させることで、生体の細胞内環境を模倣していると期待される3次元培養系に着目しながら、肝細胞in vitro評価系を構築してきた。スフェロイドが形成するまでは、薬物代謝酵素の発現量が低下するものも見られたが、スフェロイドが形成されるとその発現量は概ね一定に維持することが分かった。評価系の構築の中で、CYPによる反応性代謝物生成により肝毒性を惹起することが知られる解熱鎮痛剤アセトアミノフェンをスフェロイドに曝露したところ、還元型グルタチオン減少に基づく、細胞生存率低下が観察され、生体で見られる代謝的活性化による肝毒性を3次元培養系において再現することができた。
 さらにリン脂質の指標となる蛍光プローブを用いて、薬剤誘発性リン脂質症の代謝的活性化の可能性について追究した。薬剤誘発性リン脂質症評価は化合物の物性パラメータを用いたin silico評価が有用であり、一般にclogPやpKaが高い化合物がリン脂質症を引き起こす可能性があるといわれる。抗ヒスタミン薬ロラタジンは、in silico評価では陰性であったが、in vivo評価では陽性となる医薬品であった。ロラタジンを3次元培養系に曝露し、共焦点レーザー顕微鏡を用いて観察したところ、in vivoでみられるロラタジン誘発性リン脂質症を再現できた。またCYP阻害剤を添加することにより代謝物の寄与が明らかとなり、それはN-脱アルキル化された代謝物デスロラタジンであると示唆された。デスロラタジンは、ロラタジンに比べclogPが減少するものの、pKaは増加する化合物である。一般にN-脱アルキル化代謝物は未変化体に比べ、pKaが高くなることから、これは薬剤誘発性リン脂質症の代謝的活性化の鍵となる代謝反応であることを実証できた。
 また、酸化反応ではCYP以外の薬物代謝酵素(Non-CYP)としてアルデヒドオキシダーゼ(AO)による代謝反応も注目されている。代謝物による毒性発現に関する報告は少ないが、生成される代謝物の物性は、未変化体よりclogDが上がるケースもあること、また、代謝反応には過酸化水素も産生されることから、AO代謝による毒性発現の可能性を提起している。今後non-CYP酵素についても化学構造と代謝的活性化に関する研究が重要となる。
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© 2016 日本毒性学会
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