抄録
身の回りに存在する化学物質のうち、有害性が明らかになっている物質数は非常に少なく、化学物質の効率的な有害性評価システムの開発が求められている。そこで、我々は分子レベルで毒性評価できるトキシコゲノミクス技術に着目し、遺伝子発現量解析による新規の毒性評価法の開発に長年取り組んできた。2011年からは、経済産業省ARCH-Toxプロジェクトに参画し、Tox-Omicsチームとして毒性メカニズムに基づいたマーカー遺伝子の探索を行い、一つの反復投与試験から、一般毒性だけでなく発がん性等の別の毒性エンドポイントを評価できる試験系の開発を行ってきた。本発表では、一般毒性の中で肝毒性と腎毒性に着目し、31物質の28日間反復投与試験を実施し、マイクロアレイ解析による網羅的な遺伝子発現解析から毒性メカニズムに基づいた毒性判定システムを開発したので、その内容について報告する。さらに、肝毒性については四塩化炭素、腎毒性についてはシスプラチンをケーススタディとして、遺伝子発現量データと動物実験データを照合することにより、MoA (Mode of Action) / AOP (Adverse outcome pathway) を構築し、遺伝子発現量の変化と生体内での作用機序について整理した。この中で、シスプラチンの腎毒性については皮質、髄質外帯、髄質内帯、及び乳頭に分けてサンプリングしたことで、腎臓の複雑な構造を考慮したより精緻なMoA / AOP構築につながった。本研究により、肝毒性と腎毒性について、毒性所見及びそのメカニズムに基づいた毒性判定システムを構築することができ、遺伝子発現量データがMoA / AOP構築に有用であることが示された。今後は、今回同定されたマーカー遺伝子を活用した有効なin vitro試験の開発が期待される。