抄録
【背景・目的】血管内皮細胞は血管の内腔を単層で覆う細胞種である。我々はこれまでに,細胞密度が低い血管内皮細胞において,鉛がヘパラン硫酸プロテオグリカンの大型分子種パールカンの発現抑制を通じて増殖を抑制することを報告している(Toxicology, 133, 147-157, 1999; Toxicology, 133, 159-169, 1999)。しかしながら,鉛によるパールカン発現抑制機構は不明である。本研究の目的は,鉛によるパールカン発現抑制の分子機構を解明することである。【方法】ウシ大動脈内皮細胞を10,000 cells/cm2に播種し,24時間後に硝酸鉛を曝露した。遺伝子発現は定量的 RT-PCR法,タンパク質発現はwestern blot法を用いた。prostaglandin I2(PGI2)はELISA法によって測定した。【結果・考察】鉛の曝露濃度および時間依存的なパールカンの発現抑制を確認した。当研究室はcyclic AMP(cAMP)が血管内皮細胞のパールカン発現を抑制することを見出している。そこで細胞内cAMPを増加させるadenylyl cyclaseおよびcyclooxygenase-2の阻害剤(SQ22536およびNS398)ならびにcAMPにより活性化されるprotein kinase Aの阻害剤(H89)を前処理したところ,いずれの阻害剤も処理濃度依存的に鉛によるパールカンの発現抑制を回復させた。また,鉛はadenylyl cyclaseを活性化するPGI2の培地への放出量を増加させた。さらに,鉛によりPGI2産生酵素COX-2の発現上昇も認められた。以上の結果は,鉛による血管内皮細胞のパールカン発現抑制機構に,COX-2/cAMP/PKA経路が介在することを示している。