抄録
従来のin vitro毒性試験は二次元培養された接着細胞で行われている。幹細胞研究の高まりから組織分化に対する知見が蓄積し、細胞組織体(オルガノイド)の作成も様々な臓器を対象に行われている。生体組織に類似のオルガノイドを用いることでより生体に近い毒性試験法を開発することが期待できる。
二次元培養された接着細胞を用いた毒性試験に関してはハイコンテンツアナライザーを用いた試験法が確立されつつあるが、三次元培養されたオルガノイドを用いた毒性試験はまだ確立できていない。その理由として、(1)均一な品質の三次元構造物を安定的に作製することが困難である、(2)三次元構造物の変化を定量的に測定する解析手法が乏しいことが挙げられる。
我々は、これまでラット腎前駆細胞を三次元培養することでin vitro腎毒性試験法に開発を行い、腎毒性物質であるシスプラチン投与により細胞死が誘発することを明らかにしてきた。
生体に無害な近赤外光を用いた光干渉断層画像撮影法(Optical Coherence Tomography: OCT)は、非侵襲下に組織の精密断層像を得ることができる。細胞にダメージを与えることなく撮像できることから、臨床の現場でも緑内障診断するための標準医療機器として眼科領域で広く普及している。
本研究では、ネフロン様三次元構造体に対してシスプラチンを曝露し、その構造体の形態的な変化をOCTを用いた測定機器により撮影し、画像解析ソフトにより解析した。その結果、シスプラチンによるネフロン様三次元構造体の体積および表面積の減少、近位尿細管様管構造の切断による独立した構造体(オブジェクト)の増加を定量的に測定することができた。
さらにOCTを用いることで実現したオルガノイドの形態変化を非侵襲的に撮影し定量的に解析するシステムの毒性試験における有用性と将来性に関して議論したい。