抄録
<緒言>オピオイドの呼吸抑制作用は周知のことであるが,小動物では常同行動の発現などによりその作用を捉えることは難しい.今回,オピオイドの一種であるフェンタニルクエン酸塩の呼吸抑制作用を,ラットを軽麻酔した後に投与することによってWhole Body Plethysmography(WBP)法を用いて検出したため報告する.
<方法>SDラット(1群8匹)をイソフルラン吸入により軽麻酔した後,フェンタニルクエン酸塩の0.13,0.35又は0.5 mg/kg,対照として生理食塩液を腹腔内に投与した.投与直後よりWBP法により呼吸機能を測定し,呼吸数及び換気量の変化を評価した.また,イソフルラン麻酔による動脈血血液ガスへの影響を,別のラットを用いて確認した.
<結果>フェンタニルクエン酸塩の0.5 mg/kgでは,明らかな呼吸数減少と分時換気量の低下が認められた.一部の動物においては,一定時間の呼吸停止に引き続き,呼吸が再開する呼吸抑制が認められた.また,呼吸抑制時の呼吸波形には呼吸数が規則的に増減する波形も観察された.イソフルラン麻酔下の動脈血では,無麻酔で採血した動脈血と比較して,二酸化炭素分圧の上昇が認められた.
<考察>オピオイドによる呼吸抑制は,延髄の呼吸中枢へ直接作用して二酸化炭素に対する反応を低下させることにより誘発されることが知られている.イソフルランにより軽麻酔したことでラットの体動が抑えられ,さらに血液ガス中の二酸化炭素濃度が通常より高い条件となったことにより,フェンタニルクエン酸塩の呼吸抑制作用を検出し易くなったと考えられた.当該試験法はオピオイドやオピオイドと併用する薬剤において,呼吸系への影響を評価する方法として有用と考えられた.