抄録
【目的】合成エストロジェンであるDiethylstilbestrol (DES) の成雄ラットへの影響はこれまで精巣及び副腎毒性としてステロイドホルモンの減少や肝臓中アポリポタンパク質への影響が報告されている。そこで本研究では脳への影響を調査するため、DESを投与した下垂体でのタンパク質の変化を観察した。また、血管作動性腸管ペプチド(VIP)と神経伝達物質であるドーパミン(DP)及びセロトニン(5-HT)量を調査した。
【材料と方法】SD系成雄ラットに、オリーブオイルに溶解したDES 0。1 mg/mL /dayで1日おきに1週間経口投与して下垂体を採取した。また、単回経口投与後12、24、36、48及び60時間の下垂体ミクロソーム分画を用いて2D-PAGE、WB、HE染色を実施した。さらにPCRによるmRNAの発現、質量分析計を用いたタンパク質の同定及びVIP、DP、5-HTの定量を実施した。
【結果】DES 1週間投与により増加したタンパク質はプロラクチン(PRL)と同定され、mRNAも増加していた。PRLは単回投与24時間後から増加し、48時間後には正常雌の2~3倍に達した。一方、同様に投与した雌及び同濃度のエストラジオール(E2)を投与した雄では変化が見られなかった。また、DPは雌雄共に変化は見られなかったが、VIP及び5-HTは投与後24時間で雄のみ有意に増加していた。
【考察】DES経口投与による下垂体内PRL濃度の増加は雄のみで起こり、E2投与においても変化は見られなかったことから、DESによるPRL増加はエストロジェン作用ではなく、別の機序による毒性と考えられた。PRLのmRNA増加が見られ、DPの増加が見られないことから、PRLの増加はDPの分泌抑制ではなく合成亢進であることがわかった。さらに、5-HTが増加することによりVIPが増加して、PRLの分泌が促進されていることが考えられた。