抄録
【目的】慢性腎臓病(CKD)患者は腎機能の低下に伴い、心血管疾患、貧血、骨代謝異常等の様々な合併症を発症する。尿毒症物質は腎機能の低下に伴う尿排泄の低下により血中濃度が増加する代謝性老廃物であり、CKDにおける腎機能低下亢進や合併症発現に関与すると考えられているが、その標的臓器や毒性発現機序には不明な部分が多い。本研究では、腸管内で腸内細菌によってトリプトファンから生成したインドールが吸収された後、肝臓での酸化及び硫酸抱合により生成する代表的尿毒症物質インドキシル硫酸(IS)について、ラットへの飲水投与及びラット赤血球を用いたin vitro評価により毒性を検討した。【方法】実験1:雄性Wistarラット(8週齢)に0%、0.1%、0.25%(w/v)のIS水溶液を4週間飲水投与し(6匹/群)、経時的に血液学的検査及び腎機能検査を実施した。また、一部の臓器について、病理組織学的検査を実施した。実験2:ラット赤血球を0、0.0625、0.125、0.25、0.5、1 mMの用量のISで48時間、37°C下で曝露した後、赤血球中メトヘモグロビン(Met-Hb)比を測定した。【結果】実験1:対照群に比し、IS投与群で用量依存的に赤血球数、ヘモグロビン量及びヘマトクリット値が減少した。病理組織学的検査では、脾臓において溶血亢進を示唆する褐色色素沈着及びうっ血がみられた。実験2:IS 0.25 mM以上の用量でMet-Hb比が有意に増加した。【結論】ISは脾臓での溶血を亢進させること及び赤血球中のMet-Hb形成増加がその機序であることが明らかとなった。本研究におけるISのラット投与時の血中濃度及びラット赤血球曝露濃度はCKD患者の血中濃度と同等であり、CKD患者においてもISが貧血進行に関与していると考えられた。