主催: 日本毒性学会
会議名: 第44回日本毒性学会学術年会
開催地: パシフィコ横浜
開催日: 2017/07/10 - 2017/07/12
重金属による健康被害が頻発する発展途上国では、汚染が広域に渡り、曝露人数が多く、安全な水や食料を供給することが難しい。私たちは、機能性食品摂取による生体防御機構Nrf2システムの活性化が、重金属被害の対策に有効である可能性を、モデル動物を用いて示してきた(Fuse et al. 2016 Toxicol Appl Pharmacol)。現在、転写因子Nrf2下流で重金属毒性の軽減に働く実行遺伝子を同定すべく、ゼブラフィッシュを用いて研究を進めている。その過程で、Nrf2標的遺伝子の一つチオレドキシンが重金属毒性軽減に機能することを見出したので、今回報告する。
チオレドキシンは、酸化ストレス防御に重要な役割を果たす抗酸化タンパク質である。 実際、チオレドキシンを過剰発現させたマウスでは、酸化ストレスにより引き起こされる各種病態が減弱することが知られている。私たちは、重金属による活性酸素種の発生をチオレドキシンが軽減させると予想し、ゼブラフィッシュチオレドキシン遺伝子(txn)を過剰発現するトランスジェニック系統を作製し、この系統胚が亜ヒ酸及び無機水銀に対する抵抗性を獲得するか生存率解析により検証した。その結果、txnトランスジェニック胚は、亜ヒ酸と無機水銀両者に対する抵抗性を示した。このtxn過剰発現による毒性軽減効果は、Nrf2量が減弱したNrf2変異胚(nrf2afh318)で、より明瞭に観察された。
本研究の成果は、チオレドキシンが重金属の毒性軽減活性を持つことを示すとともに、Nrf2による重金属の毒性緩和能を担う実行部隊はチオレドキシンである可能性を示唆した。一方、酸化ストレスである過酸化水素の毒性緩和にはtxn過剰発現が機能しないとの興味深い結果も得ており、チオレドキシンがどのような作用機序で重金属の毒性緩和を担うのか、今後さらに解析を進めたい。