日本毒性学会学術年会
第44回日本毒性学会学術年会
セッションID: S17-5
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シンポジウム17 食品汚染と毒性影響:恒常性機能の撹乱による毒性発現メカニズム
ココナッツ発酵食品の食中毒菌が産生するボンクレキン酸に関する話題提供:有機合成化学と毒性学との接点
*新藤 充
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抄録
インドネシアでかつて生産されていた発酵食品、テンペボンクレックは時として重篤な食中毒事故を引き起こした。ボンクレキン酸(BKA)はBurkholderia Cocovenenansからその原因毒素として単離、構造決定された小分子である。BKAはミトコンドリアの膜タンパク質であるアデニンヌクレオチド輸送担体(ANT)に強く結合し、その機能を阻害することでATPの放出を抑制することが知られている。近年、BKAがミトコンドリア内膜の透過性遷移を阻害し細胞死を抑制することも報告され、バイオツールとして重要な化合物となっている。しかしバクテリアからの生産量が少なく、純粋なBKAの供給量がきわめて少ないことから、詳細な生物作用に関しては断片的な報告しかなされていない。そこで我々はBKAの効率的かつ実践的な新規合成法を検討し、3つのフラグメントを各々合成し最終段階で結合させる収束型全合成に成功した。この合成BKAを用いて細胞死抑制活性に関する細胞試験の実験系を確立し、さらにこの合成法を基盤として構造活性相関研究を行い、3つのカルボン酸が炭素鎖の適切な位置に配置されていることが生物活性発現に重要であることを明らかにした。しかしこの全合成法は効率的とはいえ30工程強を要することから、大量供給には工程数の削減が必須である。そこで化学構造の単純化を考え、半分以下の工程数で合成でき十分な活性を示す誘導体を合成することに成功した。安価で大量合成可能なANT阻害剤の開発の可能性が拓かれたと考えている。これら合成BKAを分子生物学者へ供与することにより、PPARγの選択的活性化作用やWarburg効果によるがん細胞特異的な細胞障害作用などBKAの生物活性に関する興味深い新知見も得られている。本シンポジウムでは有機合成屋がこういった毒性学に関わっている姿をご紹介したい。
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© 2017 日本毒性学会
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