日本毒性学会学術年会
第44回日本毒性学会学術年会
セッションID: S2-1
会議情報

シンポジウム2 カーボンナノチューブの「剛性」と発がん性(アスベストとの比較)
イントロダクション:カーボンナノチューブの発がん性 - 各種アスベストの比較知識からわかること
*菅野 純
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
 多層カーボンナノチューブ(CNT)の発がん性については、アスベストで明らかとなった繊維性発癌の知見に基づくいくつかのモデル試験を含む動物試験が行なわれ、中皮腫に加えて肺腺癌も誘発する事が明らかにされた。アスベストと言えば中皮腫が有名であるが、ヒトにおける主な標的は、肺がんであり、タバコなどの交絡因子の問題が常にあるものの、中皮腫症例の2~数倍と言われている。また、肺がんの病理組織型は、腺癌に限定されず、扁平上皮癌を含むあらゆる上皮系腫瘍を含むことがヒトでは報告されている。大きく肺がんと中皮腫を分けて考えた場合でも、その誘発機構は、違いがあるのか否かも含め、明確にされて来てはいなかった。特に、太さや硬さが異なる蛇紋石族(serpentine)の白アスベスト(crisotile)と、角閃石族(amphibole)の青アスベスト(crocidolite)や茶アスベスト(amosite)などの発がん性の差異について、発癌標的、異物肉芽腫や線維瘢痕の有無、用量相関性の差異、など、不明な点が多い。その様な状況でも、演者が問い合わせたヒト・アスベスト症例に経験のある医師や病理学者、毒性学者は、押し並べて、硬い軟い、太い細いに関わらず、「繊維は吸入した場合、危ない」、との意見であった。それにも拘わらず、一部で「白アスベストのように細く柔軟なCNTは発がん性が低い」という論議を生んだ背景には、アスベストによる繊維発がん機構の解明が、残念ながら多種にわたるCNTの評価に利用できるほどには進んでいなかった事が考えられる。
 今般の多種のCNTにわたる毒性研究を概括すると、繊維状粒子の形状と剛性、投与経路に依存した発がんメカニズムが存在する可能性が示されつつある。本シンポジウムでは、アスベストの臨床病理から得られる知識を最大限利用し、様々な分野で市場化が進みつつあるCNTを用いた製品の市場化動向を配慮し、様々な形状を持つ繊維状粒子の総合的なリスクの検証や今後必要となる研究分野についての討論、特にKnowledge Gapの所在が明らかになれば幸甚である。
著者関連情報
© 2017 日本毒性学会
前の記事 次の記事
feedback
Top