日本毒性学会学術年会
第44回日本毒性学会学術年会
セッションID: S21-1
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シンポジウム21 遺伝毒性発がん物質の‘閾値’とリスク評価
イントロダクション:遺伝毒性物質による発がんメカニズムと現実のリスク評価の狭間を考える
*青木 康展
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抄録
化学物質の作用により、ヒト個体を構成するおおよそ40兆個といわれる体細胞のうち1個でもがん原遺伝子やがん抑制遺伝子にDNA損傷が起こり、突然変異が誘発されれば、腫瘍が誘導される可能性がある。従って、原理的には遺伝毒性を有する化学物質の発がんには閾値はないと考えられ、また、実験的な証拠も得られつつある。従って、遺伝毒性を有する発がん物質のリスク評価においては、数理モデルを用いたVSD(仮想安全用量)の算定が一般的に選択されるのに対して、遺伝毒性を‘有しない’発がん物質の場合は、閾値があると考えてNOAEL等を基にしたTDIの算定が選択される。しかしながら、現実のリスク評価では、「弱い遺伝毒性物質」「二次的作用メカニズムによる遺伝毒性」、あるいは化学物質の発がん性に対する「遺伝毒性の関与が不明確」な場合には、TDI算出の選択も考えられる。ここに原理と現実のリスク評価との乖離がみられる。例えば、有害大気汚染物質の環境基準・指針値設定のためのリスク評価において、1,2-ジクロロエタンでは、動物への吸入曝露による発がん実験の知見から算定したVSDを基に指針値が設定されている。その一方、クロロホルムでは閾値があると考えて発がんリスクが評価されている。これら発がんリスク評価手法の選択の判断は、一般には、化学物質による突然変異誘発の発がんへの関与について、変異原性試験の知見から評価することで行われる。しかし、アクリロニトリルのように動物実験で発がん性が認められても、総合的判断から発がんを指針値設定のエンドポイントとしなかった例もある。現実のリスク評価は、原理との乖離を認めつつ進めざるを得ないであろうが、この乖離の原因は何か? あるいは乖離を埋めることはできるのか? について考えてみたい。
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© 2017 日本毒性学会
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