日本毒性学会学術年会
第44回日本毒性学会学術年会
セッションID: S25-1
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シンポジウム25 臨床フェーズ1試験の安全性を考える - BIA 10-2474事件から何を学ぶか -
BIA10-2474 事例紹介
*馬屋原 宏
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抄録
 2016年1月10日、フランス北西部のレンヌの治験実施施設で実施中のPhase I試験において重大事故が発生した。この試験は脂肪酸アミド加水分解酵素(FAAH)阻害剤、BIA 10-2474のFIH試験であり、FAAHの阻害は脳内エンドカンナビノイドの濃度上昇を通じ、種々の脳機能に影響を与えることが知られている。治験では単回及び反復漸増経口投与試験、PK/PD試験、食餌影響試験が計画されていたが、事故は反復漸増投与試験における50mg/human群への5回目の投薬後に起きた。実薬投与の6名中1名が脳卒中様の症状を呈し、レンヌ大学病院に搬送され、翌日昏睡状態に陥り、脳死を経て1月17日に死亡した。残り5名には事故発生の翌11日にも6回目の投薬が行われ、うち4名も入院し、MRI検査で脳に微小出血や両側性壊死等の病変が認められた。1.25~100mg/humanまでの単回投与、及び2.5~20mg/humanまでの10回の反復投与(累積投与量200mg)までは問題がなく、累積投与量250/300mg(それまでの25/50%増)で5/6例に事故が起きたことから、原因は蓄積毒性の可能性も含め被験薬の過剰投与であったことは明らかである。従って、「なぜ過剰投与が防げなかったか」が問題となる。この観点から、1)ヒト初回・最大投与量がラットのNOAEL から計算されたことは適切だったか、2)試験計画書のヒト単回及び反復投与試験の用量設定に動物及びヒトのIC50等のPK/PD情報が適切に参照されたか、3)マウスやラットの反復投与毒性試験の高用量で脳に病変が認められ、また、イヌやサルの用量設定試験や 13週試験で複数の動物が死亡あるいは切迫屠殺され、脳に病変が認められていたにも関わらず、この情報が試験計画書に記載されていなかったこと、4)ヒト単回及び反復投与試験において、投与量の増量の際にその直前の投与量におけるPK/PD情報が適切に参照されたか、5)脳の形態学的・機能的検査が適切に実施され、結果が次の用量設定に参照されたかなど、事故の原因に関連すると考えられる幾つかの要因を挙げ、またFAAH活性阻害による中枢神経毒性の発現メカニズムに関する仮説を提供し、議論に供したい。
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© 2017 日本毒性学会
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