主催: 日本毒性学会
会議名: 第47回日本毒性学会学術年会
開催日: 2020 -
【目的】重金属類やダイオキシン類に加え、残留性有機汚染物質やPM2.5を含む大気汚染物質など、生殖発生毒性を有する環境汚染物質は多数存在する。これらの物質の多くは、共通して胎児への血流不全を引き起こし、脳発達異常のリスク因子であることが報告されている。そこで本研究では、生殖発生毒性の横断的な理解を進めるべく、胎児への血流を抑制可能な新規動物モデルの確立を目的として行った。
【方法】吸水により膨張する血管狭窄器具(内径0.40または0.45 mm)を妊娠17日のSDラットの子宮動脈、卵巣動脈に装着した。その後、子宮内血流量の経時的変化、仔の体重推移、行動変化、組織学的変化を評価した。
【結果】子宮内血流量は、器具装着後に時間経過とともに緩徐に低下した。妊娠20日には、内径0.40 mm器具によって60%まで、内径0.45 mm器具によって70%まで低下した。仔の体重推移では、いずれの装着によっても、生後3日から22日まで、偽手術群に対して有意な体重の低下が認められた。特に、低体重個体(-1.5SD値以下)の割合が偽手術群では9%であったのに対し、0.40 mmで51%、0.45 mmでは42%であった。行動試験の結果、8~11日齢における背地走性の低下、1カ月齢における協調運動能と運動学習能の低下が、いずれの装着群においても認められた。加えて、0.40 mm群においては認知機能と空間作業記憶能の低下も認められた。行動試験で変化の認められた機能を司る大脳皮質及び海馬の組織学的解析を行った結果、神経新生の有意な減少が確認された。
【結論】本研究により、胎児への血流を緩徐かつ持続的に抑制可能な新規モデルの作製に成功した。さらに、使用する器具の内径を変えることで、血流抑制の段階的な調整が可能であることを示した。本研究で確立したモデルは、胎児への血流不全に伴う病理病態、ならびにその病態が生じる機序の解明に繋がり、生殖発生毒性のさらなる理解や新規物質の生殖発生毒の予測に貢献することが期待される。