抄録
一酸化炭素(CO)は有機物の不完全燃焼により発生するガスである。COはヘモグロビンに酸素よりも250倍高い親和性を持っていることから、急性CO中毒では低酸素血症を主体とする症状を呈する。また、急性期の症状が改善した後に、数日から数週間後に認知機能障害やパーキンソンニズムなどの精神神経症状をきたす事が知られており、CO中毒間歇型(Delayed neurological sequelae, DNS)と呼ばれている。CO中毒の転帰は、急性期の低酸素症による中枢神経障害を含む臓器障害と亜急性~慢性期における間歇型の発症により決定される。
急性CO中毒の治療は、酸素投与による体内のCOのwash outが基本であり、高気圧酸素(HBO)治療が行われる。急性期におけるHBO治療の利点はCOへモグロビン(COHb)濃度の半減期を短縮することにあり、動脈血COHb濃度を50%とした場合の半減期は、大気圧下で320 分、100%酸素投与で80 分、2.5 気圧の高気圧酸素下で23分である。
CO中毒間歇型の発症予防にHBO治療の有用性が認められたWeaverらの報告1)以後、急性CO中毒に対してHBO治療が施行されている。しかしながら、その後のRCTでは間歇型の予防に対するHBO治療の優位性が示されておらず2)、現状では急性CO中毒に対するHBO治療は明確なコンセンサスを得られていない。
我々が、一酸化炭素中毒レジストリーCOP-J study参加希望施設76施設を対象にアンケートを行った結果、急性CO中毒患者にHBO治療を行う施設は回答を得られた46施設中33施設(69%)であった。HBO治療の適応として、全例行う:8施設(24.2%)、COHb濃度10%以上で行う:11施設(33.3%)、COHb濃度20%以上で行う:9施設(27.3%)、CO長時間曝露:17施設(51.5%)、意識障害がある場合:19施設(57.6%)、その他:5施設(15.2%)であった(複数回答あり)。また、CO中毒間歇型の治療を行っている施設は17施設(35%)であり、そのうちHBO治療を行うとした施設は15施設(88%)であった。
HBO治療の施行も含め、CO中毒の急性期治療は一定したものはなく、各施設により様々であった。今後急性期の治療法のエビデンスの構築およびコンセンサスの確立が必要と考えられる。
引用文献
1) Weaver LK, et al. N Engl J Med 2002;347:1057-67.
2) Annane D, et al. Intensive Care Med 2011;37:486-92.