抄録
近年、システインパースルフィド(CysSSH)などの活性イオウ・ポリスルフィドが生体内で大量に合成され、強力な抗酸化活性や親電子物質の解毒代謝機能を発揮していることが明らかとなった。しかしながら、活性イオウ・ポリスルフィド分子種の生成機構や機能については不明な点が多い。最近我々は、タンパク質ポリサルファ化とCysSSH生合成機構を解析するなかで、タンパク質翻訳酵素:アミノアシル-tRNA合成酵素の一つであるシステインtRNA合成酵素(cysteinyl-tRNA synthetase, CARS)が、高いCysSSH合成活性をもっていることを見出した。すなわち、システインを基質に効率よくCysSSHを生成し、これをtRNAに取込むことで、翻訳時にポリスルフィド化タンパク質を生理的に合成(protein polysulfidation)していることが明らかとなった。この様なユニークな翻訳共役型CysSSH産生機構は種横断的に発現されており、例えば、真核細胞・哺乳類細胞においては、細胞質に存在するCARS1とミトコンドリアに局在するCARS2にも強力なCysSSH生合成能があることを発見した。さらに、ミトコンドリアにおいて、CARS2より産生された遊離型のCysSSHは、ミトコンドリア機能制御することが分かった。一方で、CARS2によって産生されたCysSSHが、ミトコンドリアより細胞質に放出され、細胞全体のCysSSH主要な供給源になっていることが明らかとなった。本講演では、この様CARSのユニークな生理機能に基づき発揮される全く新しいエネルギー代謝系であるイオウ呼吸について最新の知見を紹介する。