日本毒性学会学術年会
第44回日本毒性学会学術年会
セッションID: S5-2
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シンポジウム5 毒性解明に向けた薬物代謝・動態研究の融合 / Collaboration of drug metabolism/pharmacokinetic and toxicological researchers for understanding of toxicity
毒性理解のための薬物動態的アプローチ:トランスポーターと全身・局所曝露
*玉井 郁巳
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抄録

薬物毒性の多くは投与量(濃度)依存的であるため、体内薬物濃度を調節する薬物代謝酵素と薬物トランスポーターの関与の有無、さらに関与する場合は相互作用や遺伝子多型の影響を考慮することが必要となる。薬物トランスポーターについては、薬物間相互作用(DDI)による臨床上リスクの懸念がある重要分子として肝OATP、腎OAT、OCT、MATEならびに消化管を含め複数臓器で影響するBCRPとP-糖タンパク質がある。いずれも多様な医薬品が基質あるいは阻害薬となるためDDI上の問題となる。通常、DDIや遺伝子多型による薬物動態変動の臨床的リスクは血中薬物濃度で判断されるが、有害作用の多くは細胞・組織中濃度に依存する。血液脳関門に発現するP-糖タンパク質などは薬物の組織移行を妨げているため、活性低下は組織中濃度の増大、即ち毒性発現のリスクを上げる。しかし、移行組織が小さい脳のような場合は局所組織での移行性上昇が必ずしも血中濃度変動を伴うほど大きくない。即ち、薬物代謝酵素の場合と異なり、組織移行にトランスポーターが関与する場合、組織中濃度を単純に血中濃度からは推定できない。DDIで変動が生じる場合は、局所組織での相互作用Local-DDIとして、血中濃度変動を観測できるSystemic DDIと区別して考慮する必要がある。演者はLocal DDIの例として、BCRPで制御されるドネペジルの心移行性が併用薬シロスタゾールによるBCRP阻害のために上昇することによる心毒性のリスクを報告した(DMD, 44:68-74(2016))。一方、薬物が生理的トランスポーター活性変動させる場合もある。胆汁酸排泄に働く肝胆管腔側膜のBSEPの阻害は肝細胞内胆汁酸濃度を上昇させ肝毒性のリスクとなる。このようにトランスポーターは多様な薬物や生理物質の血中・組織細胞内濃度調節に働くため、多面的に薬物の影響を考慮することが望まれる。

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© 2017 日本毒性学会
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