日本毒性学会学術年会
第44回日本毒性学会学術年会
セッションID: S6-1
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シンポジウム6 継世代影響広域企画:環境要因による多世代・継世代影響 そのメカニズムと考察
化学物質の生殖細胞変異原性と次世代影響
*増村 健一
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抄録
遺伝子突然変異は、様々なDNA損傷(鎖切断、脱塩基、修飾等)が不完全なDNA修復やDNAポリメラーゼの複製エラーを経て、遺伝情報が書き換えられることによって生じる。体細胞突然変異はがんの原因となり、生殖細胞突然変異は次世代個体に遺伝して遺伝性疾患等の要因となる。近年、次世代シークエンサー(NGS)を用いたヒトゲノム配列の大規模解析が行われるようになり、様々な疾患と関連する遺伝子変異が発見されている。ヒトの生殖細胞系列では、世代あたり数十個の一塩基変異(SNV)がゲノム中に新たに生じると考えられている。生殖細胞突然変異の誘発はヒト集団のゲノムの多様性にも負荷を与え得るが、環境化学物質が生殖細胞に突然変異を誘発し次世代にどのような遺伝的リスクを生じるかを評価する手法は確立されていない。化学物質が生殖細胞および次世代個体のゲノムに与える影響を評価するための基盤的研究として、トランスジェニックマウス遺伝子突然変異試験とゲノム解析を用いた検討を行った。遺伝毒性発がん物質であるエチルニトロソ尿素(ENU)を雄マウスに投与し、無処理の雌と交配して生まれた次世代マウスの全エキソーム解析を行った。SNVの親子間比較によってde novo変異を検出し、次世代突然変異頻度を算出した。次世代個体のゲノムにおいて変異頻度の増加とENUに特徴的な変異スペクトルが認められ、父親マウスに投与した変異原物質の用量依存的に子マウスゲノム中のde novo変異が増加することが示された。ゲノム解析によって遺伝子突然変異を直接検出する手法は、化学物質の生殖細胞変異原性と次世代影響の評価に有用であることが示唆された。
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© 2017 日本毒性学会
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