【緒言】多層カーボンナノチューブ(MWCNT)は気管内投与によりマウスの催奇形性を誘発するが,そのメカニズムが不明であるため,本研究では前処理方法の異なるMWCNTを用いて胎児に与える影響を比較検討した.【方法】投与試料は,未処理(T),250℃2時間の熱処理(HT)あるいは吸入ばく露試験用の分散処理(Taquann処理;TQ)を施したMWCNT(MWNT-7)を,それぞれ1%CMC-Na/PBSに懸濁させた3種類を用意した.気管内投与は,これらをICR系の妊娠マウスに1回当たり4 mg/kg体重で4回(妊娠6,9,12,15日目)あるいは3回(妊娠6,9,12日目)実施し,前者で妊娠17日目に帝王切開して催奇形性の解析を,後者で妊娠15日目に解剖して肺の病理組織学的・生化学的・分子生物学的な解析を,それぞれ行った.【結果・考察】試料液の肉眼的な観察ではHT・T・TQの順に分散状態が良く,母体や胎児に与えた影響も概ねこの順に強かった.母体の体重増加の抑制は,全投与群で見られたが,特にHT群で顕著であった.死胚の数はHT群のみで有意に増加し,胎児重量はT群とHT群で有意に減少し,HT群がより低値を示した.TQ群はいずれも対照群と同程度だった.また,胎児の内臓異常の頻度はT群とHT群で有意に増加した.一方,組織学的には,全投与群で肺実質の炎症性反応が見られたが,HT群では肉芽腫を伴う比較的強い応答であった.肺胞洗浄液中の好中球および好酸球の数はHT群で最も多く,TQ群は対照群と同程度だった.肺胞洗浄液のLDH活性および総タンパク質量も全投与群で増加していたが,TQ群の増加程度は比較的弱かった.さらに,肺組織におけるIL-6やCCL2のmRNA発現は,全投与群で増強し,特にHT群で顕著であった.以上より,MWCNTによる胎児の発生毒性の程度は母体の肺の細胞障害や炎症の程度に依存することが明らかとなり,その発生毒性は肺の炎症に起因する二次的作用であるものと示唆された.(厚生労働省科学研究費補助金(H27-化学-指定004)よる)