【目的】Benzodiazepine系の薬物midazolamは、痙攣発作の治療や手術時の麻酔の導入・維持を目的に、second trimester(妊娠3ヶ月)以降の妊婦に対して限定的ではあるものの依然使用されている。しかしながら、胎児に移行したmidazolamの薬物動態は、全く明らかになっておらず、現在のところ胎児に対する安全性の予測は困難な状況にある。そこで本研究では、midazolamを妊娠中に使用した際の胎児における薬物動態を詳細に解析することにより、midazolamの胎児への影響を明らかにすることを試みた。
【方法】Second trimester(妊娠14.5日)のマウスに、midazolam(2.0 mg/kg)を尾静脈より処置した。投与後、10-300分目にマウスを解剖し、母体の脳及び血漿並びに胎児全体あるいは胎児の脳におけるmidazolam及びその代謝物1′-hydroxymidazolamの移行量をLC-MSで定量分析した。
【結果・考察】胎児の脳におけるmidazolamあるいは1′-hydroxymidazolamのAUCinfは、母体の脳におけるAUCinfと比較すると、それぞれ44.7%と44.5%であり、両薬物ともに母体の脳の約1/2の量が胎児の脳に移行していることが明らかになった。さらに、midazolam及び1′-hydroxymidazolamの母体における血中から脳への移行性と、胎児における全身から脳への移行性を比較したところ、母体では血中に比べ脳のそれぞれの濃度が1.86倍及び1.02倍高かった。胎児においてもそれぞれ1.79倍と0.75倍となり、midazolamと1′-hydroxymidazolamの末梢から脳への移行性は、母体と胎児で差がないことが示唆された。
本研究の成果は、母体の血中midazolam濃度のデータから胎児の脳に移行するmidazolamの量を推測できる可能性を示唆している。今後、さらに詳細な解析を行うことによって、妊娠中のmidazolamの投与設計に対して明確な科学的根拠を与えることができるものと期待される。