条件づけ場所嗜好性(Conditioned Place Preference; CPP)試験は,中枢神経作用薬の精神依存性に関わる報酬効果を比較的簡便に評価できる試験であり,ラットを用いたCPP試験は数多く報告されている.しかし,マーモセットを用いたCPP試験の報告は少なく,精神依存性評価におけるマーモセットの検討は十分には行われていない.そこで,本研究はマーモセットのCPP試験の確立を目的とし,報酬効果が強いコカイン及びモルヒネを用いて検討した.
実験にはマーモセット雄5匹を用いた.条件づけの為の環境刺激には,視覚・触覚が異なる2区画の実験箱を使用した.はじめに,両方の区画を15分間,自由に探索させるPreテストを行い,各区画の滞在時間を計測した.次に,Preテスト時に滞在時間が短かった方の区画(嫌環境)と薬物,もう一方の区画と媒体(生理食塩液)の条件づけを6日間連続で行った.薬物はコカイン5 mg/kg,モルヒネ2 mg/kg,そしてこれら薬物の統制条件として生理食塩液を使用した.条件づけは1日1回50分間とし,薬物と媒体を毎日交互に条件づけた.薬物と媒体の条件づけ順序は個体ごとにカウンターバランスをとった.6日間の条件づけ後に,両方の区画を15分間,自由に探索させるPostテストを行い,嫌環境の滞在時間を計測した.報酬効果の指標として,嫌環境におけるPostテスト時からPreテスト時の滞在時間を引いたCPPスコアを算出した.その結果,統制条件(生理食塩液)に比べ,コカイン及びモルヒネのCPPスコアは有意に高かった.この結果は今回の実験がマーモセットにおけるコカイン及びモルヒネの報酬効果を適切に捉えられたことを示しており,マーモセットを用いたCPP試験が確立された.